さなよくあさまさのブログ

なにやら雑に色々書いてます。

日記 プロレタリアートとマクドナルド

 日雇いのバイトを終えて、わたしはマックに吸い込まれた。今日は寝不足で頑張ったから、帰っても夕飯がないから、お昼ご飯が少し少なかったから、となにやら理由を思い浮かべて誰にでもなく言い訳をしながらレジに並ぶ。実のところただマックでハンバーガーを食べたいと思っただけなのに思考を空転させて無駄な仕事を脳にさせていた。

 マックで食事するのは久々で、おそらくは友人たちと朝まで麻雀をした帰りに食べた朝マック以来である。いや、そういえば先週も同じバイトの帰りにマックシェイクだけを買った。シェイクを食事とするならそれ以来だ。ヴァニラの味は甘美である。

 レジの前で支払いを賭けた熱いジャンケン勝負を繰り広げる5人組の学生が後ろに並んだわたしを見てすまなそうに横に退いてくれたので「ああ、どうも」と会釈して、歩を進める。レジには女性店員が立っていて0円のスマイルを提供しながら注文を聞いてきた。「ビッグマックのセットで」と端的に答えると「セットはポテトでよろしかったでしょうか?」「お飲み物は?」と聞かれてそれに答える。一度に言えば店員さんにこのような質問をさせる労力をかけさせることもなかったろうに、と妙なことを考えてしまってから、ようやくわたしは自分が疲れていることに気付いた。そのときである。

「マックシェイクは+50円でMサイズにできますがどうなさいますか?」

と店員は問うた。疲労に効くものは糖分、ひいてはマックシェイクである。この時の返事はかなり早かった。「ああ」も「えーっと」もつけずに元気良く「はい!」だった。

 数分後には周囲に人が座ってない窓際の席に着くことができた。ファストフードなのだから当たり前だが、注文からできるまでが早い。空腹なときにたいして待たずに食事が運ばれてくるとそれだけで幸福度が上がる。「空腹は最高のスパイス」などと言うがスパイスも度が過ぎれば料理を台無しにしてしまうだろう。何事も適度に。実際ひさしぶりに食べたビッグマックは非常においしかった。パンでレタスと肉とピクルスと調味料を挟めばそりゃ美味くなると思うが、パンが一枚増えると中の具材は倍になりその結果、指数関数的に食の幸福度が上がるのである。それはそれとしてもし次があれば侍マックとやらも食べたい。あの肉の量で美味くないわけがない。

 セットを半分ほど食べたところで、ふと、このビッグマックセットの値段と今日働いた日雇いの時給と同じだと思った。(いま書きながら冷静に考えると時給は900円で、ビッグマックセットは800円なので全然違うのだが、手足を動かすことに疲れ切った脳くんは思考を回したくて仕方がなかったので都合の悪いことは無視である)わたしの一時間はこのビッグマックセットと同価値なのだ。その一時間わたしが何をしていたのかといえば正社員の人に指示を仰いで聞き返してうろちょろして段ボールを運んで、と碌な時間の使い方じゃない。こんな奴の一時間とこのビッグマックによって得られる幸福が同価値であろうか。しかし、マルクスだったかの言に依れば労働者は生産物でなく時間を売って金にしているらしい。それを踏まえて考えるとビッグマックは完成までの時間が速い分価格が安くなる。生産者の時間を拘束しないからだ。しかし、この数分で届けられるビッグマックの背景にはさまざまの人の努力があり、つまりは時間を消費しているから実際の価格は750円になる。というわけではない。そもそもこの古くさい単純な理屈のみでビッグマックの値段は決まってはいない。材料費や輸送費なども考慮しなくてはならない。ここまで書いておいてなんだが別にわたしは経済をちゃんと学んだわけでもないでこれらの話は間違っているかもしれない。しかし、人件費という言葉を分かりやすくしようとしたときに「時間」と「労働」とを関連付けて考えると面白い。こういうことを考えて身体活動で疲れた脳を気分転換させることは大事だ。

 ビッグマックを食べ終えて半分ほど残ったポテトをケチャップにつけながら食べたところでようやく先述のところまで考えがまとまった。まだマックシェイクも半分以上残っていて気分も上々になりつつある。Mサイズでよかった。ポテトを食べ終わっても三分の一くらい残ってそうだ。それは実質デザートだ。スプライトはバーガーを流し込むためものだが、シェイクは口のなかを暴力的な甘味で蹂躙してしまう。美味しい。

 最後に今日飲んだマックシェイクの話も書いておく。わたしはヴァニラ味を頼み、実際ヴァニラ味が手元に来たのだが、その風味は完全に桃だった。どうやら期間限定で桃のスムージーが出ているらしく、同じ機械でつくられているのか機械が近いのか香りが移ったのだろう。ヴァニラ味であることは間違いないのだが、後味に桃の香りがふわりと漂ってくる。梅雨が明けたばかりというのに暑い今日に感じた桃の香りはなんともいえない清涼さがあって、楽しい。こういうふとした瞬間が好きでたまらないので見逃さないように五感を研ぎ澄ませていきたい。あるいは桃の香りは勘違いかもしれないので勘違いをそうと気付かないよう五感を誤作動させた方がいいのかもしれない。

枯れ尾花